新しい緑内障手術

最近の大きな話題として、緑内障手術の際に特殊な装置を眼内に埋め込むインプラントが開発されました。一つはステンレスでできた非常に小さなチューブを房水が眼内から眼外に流出する場所に埋め込むというものです。特に濾過手術の際の術後合併症の軽減や時間短縮などに貢献できるものです。ただ、これで緑内障手術が完成したわけではなく、まだまだ多くの解決しなければならない問題があります。

緑内障と視力

まず、緑内障における視神経の障害の受け方を理解していただきたいと思います。
網膜はカメラでいうとフィルムに相当するところですが、網膜の中の神経は約100万本あり、これらが束になって直径約2mmの一本の視神経になって脳へと繋がっています。眼圧の上昇によってこの網膜の中を走っている神経が障害を受け脱落消失していきます。
そして、周辺を走っている神経が先に障害を受け、最も重要な物を見るのに必要な中心を走る神経は最後に障害を受けます。
これは、できるだけ大事な中心の視力を最後までとっておき、失明から守ろうとする自然の法則かもしれません。しかし、これが原因で発見が遅れてしまうこともあるのです。

緑内障治療薬

緑内障点眼薬は眼球の中を流れる水(房水)の眼球内で産生する量を減らす作用のものと、房水を眼球外へ排出しやすくする作用のものとに大きく2つに分けられます。そしてこれらの眼圧下降作用に加え、眼血流改善作用や神経保護作用などを考慮して選択します。
それぞれさらに細かく分類され、作用の違ったものを組み合わせて実際に治療にあたります。
薬品には、一般名と商品名とがあります。一般名は薬剤そのものの科学的な名前で、商品名は薬品メーカーが付けた名前です。商品名の方が親しみやすいのですが、後発品のある点眼剤は、メーカーによって違う商品名がつけられていますので、大変混乱しますのでここでは一般名を挙げて説明していきます。

ピロカルピン
歴史的に古い薬剤ですが、唯一の縮瞳剤(瞳孔が小さくなります)です。房水の流出口を拡げる作用があります。
副作用は近視化、白内障促進、暗黒感、眼痛、頭痛などです。
今では使用される機会は非常に少なくなっていますが、症例によっては大切な薬剤になります。

エピネフリン
これも歴史的な薬剤です。このタイプも流出口からの房水の流れを促進します。
副作用は眼瞼アレルギー、結膜アレルギー、網膜浮腫などです。

ピバレフリン
エピネフリンの仲間ですが、エピネフリンよりも少量の薬剤で眼球の中に移行しやすい性質があり、さらにエピネフリンの副作用を軽減したものです。

チモロール
この薬剤は世界的にも1、2を争う使用頻度で多くの緑内障患者さんが助かっています。眼圧の下がるメカニズムは房水の産出を抑制します。
副作用の報告としては、心臓に作用し、脈拍数減少、気管支収縮、うつ傾向、記憶障害、高脂血症、血糖値への影響、眼瞼アレルギー、結膜アレルギー、角膜上皮障害などです。

ラタノプロスト
有名な商品名はキサラタンです。チモロールより強い眼圧下降剤です。今のところ全身的副作用はない様です。
副作用は、虹彩の色素沈着(虹彩が黒くなります)、睫毛が長くなる、瞼の色が黒くなる、角膜上皮障害、ヘルペス性角膜炎の再発、網膜浮腫、低眼圧(眼圧が下がりすぎる)などがあります。

トラボプロスト:
ラタノプロストの仲間で、作用機序は同じです。副作用も同じですが、角膜に優しい対応がされています。このグループの特徴ですが、実際の眼圧下降には個人差があります。

タフルプロスト:
これもラタノプロストの仲間です。これも角膜に優しく、防腐剤フリーの使い捨てタイプもあります。

ビマトプロスト
これもラタノプロストの仲間です。上記種類の点眼剤はいずれも眼圧下降が強いのが特徴ですが、その効果に個人差があります。

ドルゾラミド
商品名はトルソプトで、1日3回点眼です。人によっては1日2回でも同じ効果が得られるという報告もあります。
房水の流入を減少させるタイプの薬剤で、同じメカニズムを持つこれまでのグループとは全く違う眼圧下降機序をもっています。ですから、別のタイプの点眼剤と組み合わせる治療法に期待が持たれています。
昔からこの薬剤の内服薬があり、非常に有効な眼圧下降剤として緑内障治療では重要なのですが、副作用が色々あるのが問題でした。この内服剤の点眼薬といえます。
今のところ全身的な問題に関しての報告はないようです。

ブリンゾラミド
「ドルゾラミド点眼液」と同じ仲間で、後で開発されたものです。1日2回点眼です。使用は「ドルゾラミド」と同じような効果が得られます。

ウノプロストン
商品名はレスキュラ。ラタノプロストの親戚で、ラタノプロストに比べ少し眼圧下降力は弱いのですが、血流増加作用の報告が多く、特に正常眼圧緑内障の治療に期待が持たれています。
副作用は、角膜上皮障害、虹彩色素沈着です。

レボプノロール
商品名はミロルです。1日1回点眼のチモロールとお考えください。チモロールに比べて血流増加作用が期待されています。
副作用は、チモロールと基本的に同じですが、全身性の影響はチモロールよりは少ないようです。

アプラクロニジン
商品名はアイオピジン。非常に強い眼圧下降力を持っています。今のところ、レーザー治療後の一時的眼圧上昇予防の使用に限られています。

ニプラジロール
商品名はハイパジールコーワです。チモロールの作用に血流改善作用を加えたものです。
副作用はチモロールに準じますが、全身的な疾患のある人でも比較的安全に使用できます。

ブナゾシン
商品名はデタントールです。1日2回の点眼です。眼圧下降機序が他の薬品と少し違うために、それらの薬品と併用することによってさらなる眼圧下降が期待でき、血流の増加の臨床研究も進んでいます。

チモロールGS
商品名はチモプトールXE。中身はチモロールと同じですが、基材を改良して粘性を持たせ1日1回点眼が可能になっています。

WP934
商品名はリズモンTG。チモロールGSと同じで、これも1日1回点眼です。チモプトールXEとは違った機序で粘性を持たせています。
副作用はチモロールに準じます。
チモロールGSもWP934も1回点眼ですから、全身への移行はチモロールと比較すると少ないのが特徴です。

カルテオロール
これもチモロールの仲間ですが、比較的副作用の少ないのが特徴で眼圧下降以外に血流改善作用に期待が持たれています。

ベタキサロール
商品名はベトプティックです。これもチモロールの仲間ですが、チモロールの持っている全身への影響を改善したものです。また、血流改善作用や神経保護効果が期待できることも特徴です。
副作用はチモロールに準じますが、比較すると報告は多くありません。

リパスジル
グラナテックと言いますが、平成26年末から使用できるようになった一番新しい点眼剤です。別名ROCK阻害剤とも言います。一過性の結膜充血がありますが、ほとんどの緑内障点眼薬が房水を後方ルートに導いたり、房水産生を抑制するのに対して、いわゆる本来のルートであある前方ルート誘導する作用がありますので、単剤はもちろんですが、他の違った作用機序を持った点眼剤との同時使用が期待されます。

緑内障の種類

  1. 正常眼圧緑内障
    緑内障の中で最も多いのがこの緑内障です。眼圧が正常であるのに、なぜ緑内障なのか?という疑問が生じますが、これは非常に多数の健常者を含む対象者の眼圧を測定した結果から得られた正常値であっても緑内障の方がいたということから名称がつけられました。ということは統計学的に正常値ではあるも、その人にとっては高い眼圧であるということなのです。ですから、このタイプの緑内障の方でも、眼圧下降治療は非常に意味があるのです。次に説明します原発開放隅角緑内障の眼圧が低いタイプと考えてよいのですが、中には充分すぎるぐらいの眼圧下降が得られているにも関わらず、緑内障の進行が止まらない例があり、このような例に対して、従来より眼圧以外の因子である血流障害や神経の脆弱性などが考えられています。
  2. 原発開放隅角緑内障
    正常眼圧緑内障の高眼圧タイプと考えてよいのですが、正常眼圧緑内障より眼圧の影響が強いと考えています。
  3. 原発閉塞隅角緑内障
    この緑内障の発症機序はかなり解明されています。緑内障とはの中で説明しましたが、眼内から眼外に流れる房水の急激な流出障害で発症します。房水は眼球の中の虹彩と角膜のとの間から流れていますが、この間が何らかのきっかけで閉じてしまうのです。この虹彩と角膜との隙間はある程度までは狭くても全く問題ありませんが、ある限界をすぎますと、この緑内障が発症します。一度発症しますと、短時間に眼圧が上昇し、著しい眼圧や頭痛、嘔吐を伴う視力低下(かなり見にくい)が起こりますので、緊急に点滴や手術を実施して眼圧を下げる必要があります。この緑内障で注意が必要な点は、元から解剖学的に虹彩と角膜との間の隙間の狭い人では、痛み止め、麻酔薬、風邪薬、胃腸の内視鏡検査に使う薬剤などで、この発作を誘因してしまう危険があります。この判断は眼科が見れがわかるものです。
  4. 発達緑内障
    房水の流出路の途中で何らかの先天的な障害があることにより眼圧が上昇して発症します。しかしながらこの先天的な障害と言っても非常に多くのパターンがあり、以前に出産直後で見つかる先天緑内障と言われたタイプも含まれますが、あまりにも多くの緑内障が含まれるために、発達緑内障個々で対応を決める必要があります。
  5. 続発緑内障
    他の多くの緑内障では原因がなかなかわからないのですが、全く別の眼科疾患が存在して、これが2次的に眼圧上昇をきたして発症する緑内障を言います。この緑内障で重要なポイントは緑内障として眼圧を下げる治療だけではなく、元の疾患の治療を行うことです。もちろん元の疾患がはっきりとわからない例もありますが、直接的な原因を放置して眼圧下降治療だけを実施しても効果は十分ではないのです。元の疾患には炎症、外傷、腫瘍など多くの疾患が含まれます。

緑内障と白内障の同時手術は可能か?

同時手術は可能です。緑内障の患者さんが白内障の手術を受ける場合、術後の炎症や眼圧上昇は正常の方にはそれほど問題ありませんが、元々緑内障がありますと、少しの眼圧上昇でも大きく影響します。
このようなことが予測できる時には同時に緑内障の手術も併用します。
緑内障の手術を受ける必要があるが、もともと白内障があり、別に手術をすると緑内障手術の結果に悪影響が予測できる時にも同時手術を行います。

心拍と眼圧

非常に特殊な眼圧計で持続的に測定できるタイプがあります。これを使いますと実際の眼圧は心拍に応じて変動しているのがわかります。と、いうことは心拍数が60であるとしますと、眼圧は1分間に60回のリズムで波をうつように変動しているのです。

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緑内障は手術できるか?

手術できます。注意していただきたいのは、緑内障の手術をしてからしばらくして視力が急に低下してくる場合があるということです。このような時、ほとんどは網膜の神経がほとんど消失してしまった状態で手術を受けたと考えられます。
緑内障が怖いのは、視神経の大部分がなくなっていても、それは周辺を見るための神経であって、眼の中心に存在している、視力に直接関係している神経は最後まで温存されるということです。
この最後に残った神経は、完全には正常ではなく、少しの環境変化にも敏感に影響を受け、急速に消失しやすいものなのです。余裕のある健康な神経ではなく、疲労で衰弱しきった病的な神経が一生懸命働いて、かろうじて視力を保っていたのです。このような状態で手術をした場合、手術の結果にかかわらず残った神経が消失してしまう可能性があります。
手術をしなくても視力が消失してしまう危険性は高いわけですから、このような患者さんに対して緑内障の手術をするかしないかの判断は非常に難しく、手術をした場合に起こりうる事と、手術をしなかった時に起こりうる事について十分に話をお聞きになった上で決定されるべきです。

緑内障の進行の判断

治療を考えるうえで最も重要で、患者さんが最もご心配になるのは、緑内障が進行しているのかしていないのかの判断です。これには多くの方法がありますが、現在のところ多くの緑内障専門医が認めているのは視野による判定です。これには複数の静的量的視野検査の結果が必要で、これらの結果を統計学的に回帰分析にかけて行います。この分析で緑内障が進行しているのかどうか、もし進行していれば進行速度が求められます。もちろん実際の緑内障はこの分析通りの進行になるとは限りませんので、あくまでも重要な参考値とし、総合的に眼科医が判断するものです。早期の緑内障では視野が正常であると申しましたが、そうしますとここで役に立つのはOCTの結果です。視野と同じようにOCTの複数の結果の解析で進行の有無を見つけるのです。しかしながら、OCT自体、まだ再現性や機器のよる結果の違いなど、未解決な点があります。

緑内障術後の視力

手術の方法により若干説明が違ってきます。
眼球内の水の排出口を中から切開する方法がありますが、この場合ですと切開直後から眼球の中に出血が多少なりとも起こります。この方法の手術では眼球内への出血が効果的な手術が行われたかを判断するひとつの根拠になっています。これは、視力低下は一時的なものですので、出血が吸収すると視力は回復してきます。大体、2週間くらいで吸収します。
もう1つの手術方法は、眼球の中の水の排出口を切除し、水を完全に眼球の外へ導くものですが、この場合ですと、術後に眼圧がかえって下がり過ぎてしまうことがあります。眼圧があまりに下がりすぎてしまうと、眼球の壁を構成している角膜や網膜に皺が発生し視力が低下してしまいます。この場合、眼圧低下の程度にもよりますが、視力低下が数日続けば眼圧を適当に上げる処置を行ったり、薬物を使用しますが、多くは自然に回復します。
このように、緑内障手術では一時的に視力が低下したり変動したりすることが少なくありません。

点眼治療の実際

点眼治療の目的は眼圧を下げることにあります。ようするに無治療時の眼圧より眼圧が下がらなければなりません。しかしながら、眼圧の項目で説明しましたように、多くの因子の影響で眼圧は変わりますので、いきなり点眼治療を開始しても、点眼後の眼圧が点眼前に比べて本当に下がっているのかどうかわからなくなります。そのためには、一番大きな影響を及ぼす眼圧日内変動を把握してから、点眼治療を開始する必要があるのです。これを眼圧ベースライン測定と言います。しかし、日内変動測定は2時間から3時間毎に眼圧を24時間測定するのですが、現実的には大変で入院も必要になってしまいます。そこで、日中の変動を大まかに把握することで、その人の眼圧変動をおおざっぱに把握できるのです。この日中の眼圧変動測定は決まった方法はありませんので、施設によって違います。簡単にいいますと、治療前に無治療ままの眼圧を何回か測定しようということです。このようにして日中の変動がわかりますと、初めて点眼薬を使用することになります。

子どもの緑内障

ご自分のお子様に緑内障の疑いがあると言われただけでも大変ショックなことだと思います。緑内障は大人の病気と思っておられる方が多いと思いますが、先天緑内障というものがあります。
生まれた時から既に緑内障になっている場合と、発育に従って緑内障を発症する場合があります。
小さなお子様の緑内障の検査は非常に困難になります。
検査内容は大人と全く同じですが、その中心となる検査は、視神経の精密検査と、排出口の検査の結果から判断して、検査と同時に緑内障手術を行うこともあります。乳幼児の場合は、全身麻酔下での検査となりますので、麻酔科のある施設が必要です。

急性緑内障とレーザー治療

急性に起こる緑内障があります。
同じ緑内障でも、慢性に経過するものとは全く違うメカニズムで起こります。
このタイプでの緑内障は急激に起こり、眼圧も60や70(正常が15くらい)になることがあります。同時に視力は急激に低下し、眼の強い痛みや激しい吐き気が起こり、放置すると短期間で視力が消失してしまいます。
ですから、緊急の処置や手術が必要になります。
しかし、このタイプは発作が起こる前にある程度予測することが可能で、予防する方法があります。
それが、レーザーです。外来で簡単にできますし、合併症といったものもほとんどありません。
一度発作が起こってからでは処置が大変難しくなりますので、このタイプの緑内障で発作の危険性があるなら、症状のないうちに施行するのは意味のあることです。

緑内障と遺伝

自分の病気だけではなくご家族のことも心配なのは当然です。特にお子様をお持ちの方はなおさらと思います。
ここで緑内障と遺伝を考える前に、憂慮する事柄があります。緑内障とは単一な病気ではなく、様々な原因で起こる病気の集まりを言います。
ですから、緑内障の原因となる病気があるような時には、緑内障としての遺伝はあまり問題ではなく、その原因となった病気が遺伝するかどうかということに依存していきます。
緑内障と遺伝とを考えさせるいくつかの証拠があります。
1つは、家族的に緑内障の方がいる家系がある事です。特に、親子3代まで確認されれば遺伝が濃厚となってきます。
2つ目は、緑内障はいくつかのタイプに区分されますが、その区分の割合が国によって違うので、民族学的な遺伝があるということです。

最近の緑内障の遺伝の研究は著しく進歩し、かなりのところまで解明されました。この中で期待できるのは緑内障遺伝子診断ですが、診断を依頼する前にいろいろな問題があることを知る事が大切です。代表的な問題を列記します。

  • たとえ遺伝子を持っていても、発症するとは限らない。
  • 緑内障には色々なタイプがあり、すべての緑内障には当てはまらない。
  • 親子であるかの診断も同時にわかってしまうために、必ず患者さんの同意が必要。
  • 遺伝形式が多様化している。
  • まだ治療にはいたらない。

現在のところ、緑内障すなわち遺伝病という考えは正しい表現ではありません。中には遺伝を強く疑う家系があると考えた方がよいでしょう。多くの症例では単発的に発生しています。
ここで重要なことは、“多くの緑内障は末期まで症状がない”ので、もし家族で緑内障の方が見つかったら、遺伝を心配するより、これをよい機会と考え、家族全員が緑内障の検査を受けられ、緑内障の早期発見に努めることです。